事業内容:
— 2019年の導入から丸4年が経過しました。導入の経緯と当時の課題について教えてください。
導入時は開業から10年目を迎え、スタッフは今より10名ほど少ない20名程度でした。ありがたいことに患者様もスタッフも年々増え続け、スタッフみんなが頑張ってくれている状態。特に不満があったわけではありません。
ただ、僕がスタッフと顔を合わせられる時間は減りつつあり、連絡や指示が行き渡りにくくなったような、自分だけでは手が回り切らない感覚を感じ始めていました。
同時に、世界的に有名なコーチのプログラムに参加したことで『“人”をもっと大切にしたい』と、僕自身の価値観が大きく変化したタイミングでもあります。
『組織づくりに取り組み、“僕のクリニック”から“みんなのクリニック”に変えていきたい。もっとみんなの力を借りたい』。
そんな思いでリーダーチームを編成し、自前で会議を始めてはみたものの、どうすればいいかが、いまいちわからない。
ちょうどその頃、「導入したら3年で業績が2倍に伸びたけど、興味ある?」と学生時代テニス部のダブルスパートナーであり、尊敬する大先輩の湘南美容クリニック代表 相川佳之先生からメッセージをいただき、「すごい会議」をご紹介いただきました。
— 導入にあたり、どのような懸念点がありましたか。
医療業界には会議をする文化がなく、あるとしても朝の申し送り程度です。加えて「すごい会議」の参加メンバーは医療現場のリーダーであり、僕自身も診療を外れる日は一日もない。
診療時間は患者様の予約で埋まっているなか、いかに会議の時間を捻出して会議で決めたことをやり切っていくか。果たして文化にマッチさせられるか、さまざまな懸念がありました。
— 懸念がありながらも「やってみたい」と、思われた理由をお聞かせください。
この会議をすれば患者さんの数が増える、自走式の組織をつくることでより大きな貢献ができるようになると信じたからです。
なぜなら僕の周囲には、相川先生を筆頭に「すごい会議」で実績を上げた人が何人も実在します。それを素直に信じ、試したいと思いました。
— まず、「会議をする時間がない」という問題と、どう向き合いましたか。
始めは水曜午後の休診時間帯を使って会議をスタートさせましたが、案の定、反対意見が多くあがり、診療時間を半日つぶして実施すると決めました。
患者様にご迷惑をお掛けする上に、売り上げが減る心配もありましたが、スタッフの意見を大切にしながら成長したかった。会議に参加しないメンバーも、その空いた時間を利用して技術の練習ができるなど、新たなメリットも生まれます。
「どうすれば現場の負荷を抑えて会議を続けられるか」と、考えた末の選択でした。
— 診療時間を削っても「会議を続けたい」と思ったきっかけとなった、ご自身の体験を教えてください。
初回のセッションで10時間かけて目標を設定したときに、『これを続ければ確かにすごいことが起きそうだ』と、実感したんです。
たとえば、僕らだけで会議をしていたときは、スタッフは困った表情で顔を見合わせて何も発言せず、それを見ている僕も、どうしたらいいかわからなかった。
それが、この会議で“自分の意見を付箋に書いて発表する”と、こんなにも意見が出るのか、と驚きました。思考のトレーニングとして、スタッフの“考える力”が伸びる予感がしました。
僕は患者様が増えたことで経営もうまくいっていると思い込んでいましたが、スタッフから見ると実は問題だらけだと気づけたのは、この会議のおかげです。あのまま進んでいたら、後になって大変なことになっていたと思います。
— 慣れない会議、異色の文化。懸念が的中し、セッションの継続は難航したと伺いました。
経営者として、これまでも、僕のなかでは売り上げ目標を設定して進んできましたが、よくも悪くもそれをスタッフには共有してきませんでした。
そこにある日突然、売り上げ目標をゴールにした会議が始まった。医療を生業し、会議をする文化もなければ“組織目標を立てて達成する”経験もないなかに、いきなりの「すごい会議」。 僕の説明が足りず、売り上げ重視に転換するかのように感じさせてしまったとしても無理はありません。
その上、「すごい会議」の独特な言葉づかいやカルチャーへの違和感も強く、僕が会議を『やりたい』と思う一方で、彼女たちから伝わってくるのは痛いほどの抵抗感とストレス。難航しました(笑)。
— スタッフの抵抗感を理解しつつも、院長は『続けたい』。どのように方針転換しましたか。
3回目のセッションが終わった時点で、森さんと久保田さんに相談しました。『会議は続けたいし、今いるメンバーも大切にしたい。人を犠牲にはしたくない。』
そこで会話をするうちに、非常にシンプルなことに気づいたんです。売り上げを目標にせずとも、患者様に満足いただきスタッフも満足して働いてくれたなら、自ずと業績は伸びるはずだ、と。メンバーも『クリニックをよくしたい』と思ってくれているのだから、彼女たちが喜んで取り組めるテーマにすれば、成果はきっと出る。
売り上げを目標に置くことはやめ、患者様の満足度向上(NPS®︎)、スタッフの満足度向上(eNPS®︎)、組織の運営改善という3本柱で進めることを決めました。
— 会議の構成を刷新する上で、コーチが意図したことを教えてください。
何より重視したのは、彼女たちが発言しやすい環境をいかにつくるか、です。クリニックへの思いはあるのに「すごい会議」の型にはめることで硬くなってしまうならば、型にはこだわらず、ナチュラルな「問題解決の場」に、すればいい。
もちろん「すごい会議」の本質である問題解決思考を軸足に、『何が可能なのか?』の会話をする点は変わりません。ただ、発言のフォーマットなどの“型”にはこだわらない。通常は、数値目標を指標に問題解決を進めるところを、このチームでは数値目標は掲げない。売り上げの数字を握るのは僕と斎藤先生の間でのみ、としました。
セッションでは、患者様目線、スタッフ目線で目の前の問題をひたすら解決し続け、あくまで結果として数字を手に入れる構造です。
『人の感情を尊重しながら成果を上げたい』という斎藤先生の思いとメンバーの特性を踏まえ、発言量を増やすことを意図して再スタートしました。
— テーマを絞ったことで、何がうまくいきましたか。
何よりスタッフがやりたいと思うテーマに取り組めたことがよかったですね。以前はお通夜のように暗かったスタッフの表情が、ガラリと変わりました(笑)。
「売り上げを達成するための課題はなんですか」と、尋ねても意見は出ないものの、「患者様の満足度を上げるための課題はなんですか」と、尋ねると、途端に発言量が増える。その違いだと思います。
どちらの疑問文を解いても成果は上がるので、雰囲気よく問題解決が進む方を選びました。
— 導入から丸4年。どのような成果が出ていますか。
開業から13年連続で患者数が伸び続けています。売り上げは、コロナの影響で診療が十分に提供できなかった一昨年のみ前年比マイナス。それ以外は前年比増を続け、昨年は過去最高売り上げを達成しました。
全員で、ここまでやり切れたことが最大の価値です。
— 人材や組織づくりの面での成長はいかがですか。
スタッフが圧倒的に変わりました。会議では、森さんが質問するまでもなく全員が次々と発言し、付せんに書く必要がないほどに意見が出ます。安心できる空間を森さんがつくり出してくれるからこそ、言いたいことを自由に発言できる。
スタッフの“考える力”も強化され、自主的に動いてくれるようになったことで僕が細かいことを言う必要もなくなり、初期に目指した“組織づくり”は、十分に達成できました。
— “考える力”や“自主性”は、会議の何が源となって生まれたのでしょうか。
“何が可能なのか”だけを会話することに尽きると思います。「何ができますか」「何が可能ですか」と、問いかけることで自然と思考が進み、行動が生まれる。問題解決志向が定着しました。
「すごい会議」の仕組みに沿って、役割を分担してPDCAを回しているので、その原点を崩していないことも効いているんじゃないかな。
全くの型通りではなくとも、問題解決に必要なエッセンスさえ押さえれば「問題解決への“思考”は根付く」と、これまでの体験から学びました。
— 森コーチの魅力をお聞かせください。
ここまでうまくいっているのは、森さんの柔軟性のおかげです。
高い目標を立て、型を使いながら問題解決のスピードを上げ、必要ならばメンバーも替えながら成果を上げる、という「すごい会議」のパワフルな効果はもちろん理解しています。
ただ、僕の場合は、雰囲気よく仕事をすることに開業以来こだわり抜いてきたので、そこを大切にしながら業績を上げる方法を見つけたかった。
森さんとはさまざまな会話をした上で、僕の思いや人間性、スタッフの性格などを深く理解して尊重してもらえたことがよかったですね。
— 5年目となる現在も、リピートし続ける理由を教えてください。
NPS®︎やeNPS®︎のアンケートを定期的に取り、問題と向き合っていますし、会議のたびに新たな問題が出てくるので、僕たちにとってはなくてはならない場です。
今、スタッフが“対院長”ではなく“対問題”というあり方で会議に臨み、安心して発言できるのも森さんの存在があってこそ。様子を見て絶妙なタイミングで、スタッフの意見を引き出してくれる点も到底マネできません。
僕にとっては、森さんとの何気ない会話のすべてがコーチング。思考が整理され、新たな問題を認識させてくれる貴重な時間なので、いてもらわないと困ります。
— 改めて、この会議で斎藤先生が手に入れた、うれしい成果を教えてください。
雰囲気よく会議ができて、確かな成果が出せていることです。ただ、ひょっとすると、森さんが僕らを尊重して支え続けてくれていることが一番うれしい事実かもしれません。
— 「すごい会議」の型をアレンジすることで生まれる可能性を、どのように実感しますか。
「すごい会議」の活用の幅が広がりますね。業界や経営者の考え方、組織規模などによっては、こういったアレンジがマッチする場合もあるはず。
ただ、このチームでは、20〜30名の規模だからこそ“型”を徹底しないコミュニケーションでも一定スピードで進めますが、100名を超える組織でも効果的に働くかというと、恐らく違います。そこの見極めは必要です。
いずれにしても、本質さえ逃さなければ、方法は最適化して成果を出せると証明できたケースでした。
— お知り合いの方に「すごい会議ってなに?」と聞かれたら、どう回答されますか。
実際に知人に伝えているのは、「目標を設定して役割分担し、責任を持ってやり遂げることで、いい成果が出る会議」です。
コンサルティングとの違いは、自分たちで考えるきっかけをくれること。誰かに指示されてやるのでなく、自分たちで出した答えだから頑張れる。そこがこの会議の大きな価値ですね。
僕らは「すごい会議」をアレンジして実践していますが、本質を押さえ、最終的に求める成果が出せることが大切なのだと思います。
— 今後のビジョンとコーチへの期待を教えてください。
より多くの患者様に貢献したいという思いで、2030年までに、年間10万人に来院いただけるクリニックグループを必ずつくる、と決めています。
それには、あと6年半で分院を2院はつくる必要があり、全く異なる分野のクリニックの開院にも取り組んでいきたい。昨年新設した分院にもまだまだ伸びしろがありますし、この院では、次世代リーダーの育成段階にも入っています。リーダー陣には積極的な学びの場を設け、採用教育の課題に取り組んでいきます。
目標の達成を目指す上で、僕の理解者として心から信頼しているのが森さん。末長くお付き合いしていきたいですし、今後も一緒に成長させてもらうのが楽しみです。
— ありがとうございました。
( 2023年7月)
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